特別なひと時を作り出すセミドライレーズンは、
可能性に満ちた一粒の宝石。
 いわさ農業 安陪 太雅さん・有希子さんご夫婦
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みなさま、セミドライレーズンを召し上がったことはありますか?
ほど良いジューシー感と濃縮された旨味。
ワインのおつまみとしても、美味しい紅茶を淹れた贅沢なティータイムのお供としても最適で、こだわりのレストランシェフもお気に入りの一品です。
“いわさ農業”さんは久留米市田主丸町で無農薬のお米、たけのこ、そしてぶどうを栽培しています。今回、安陪 太雅さん・有希子さんご夫婦にお話を伺ってきました。
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1、大事なぶどうだから、一粒ひとつぶ、手をかけて。
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2019年10月22日(火)晴れ
久留米市 北野天満宮参道で行われた“参道マルシェ”に行ってきました。
朱色の鮮やかな楼門へと続く参道に、個性豊かな店が立ち並んでいます。お店の人たちも、お客様たちものんびりしていて、とても和やかです。

出店しているブースの一つに“いわさ農業”さんがありました。

それがセミドライレーズンです。巨峰を使った大粒のものと、〇〇を使った小ぶりのものと、現在2種類あります。
大粒のセミドライレーズンをひとくち食べてみると…
田主丸町名物、巨峰の濃縮された味と香りが口の中いっぱいに広がります。そして、程よいジューシー感がとっても上品。
「それは種まで食べれるんですよ。種も栄養価が高いんです!」
干したぶどうは “自然のサプリメント”と言われていて、果皮にはポリフェノール、果肉には鉄分・食物繊維が、種には必須脂肪酸、ビタミンEなどが含まれています。免疫力の向上や便秘の改善、老化防止や美容にも効果的なんだそうです。
それにしても珍しいセミドライレーズン。どうして安陪さん夫婦はこれを作ろうと思ったのでしょうか?
「他は綺麗な実なのに、もったいないですよね。」

これに新しい価値を見出せないか…そう考えていた時、農業器具の展示会で興味を持ったのが、果実を乾燥させる機械。
「巨峰のドライレーズンを作ってみたい!」と、早速開発に乗り出します。
まずは実を枝からバラすところから始まりますが、気をつけているのが
「“ふた”をした状態でバラすこと」
ぶどうの実はもろいので、降って落とした方が早いのですが・・・
「時間はかかるけど、ハサミを使って一粒ひとつぶ、切っていきます」
そうすることで風味が保たれたぶどうの実。

始めは半分にカットし種を取って乾燥させましたが、見た目があまりよく出来上がりません。
次に種ありで乾燥させ始めましたが、これがなかなか難しく、皮に包まれているため全く水分が抜けません。まる2日かかってやっと水分が抜け始めたそうです。
そして出来上がったドライレーズンとセミドライレーズン。
食べ比べてみて、巨峰の豊かな果肉の食感が味わえるセミドライレーズンを主力とすることにしました。
「目で見て手で触ってみて、シワ感がありすぎてもなさすぎてもダメ。セミドライの状態って結構難しいんですよ」
それがぶどうの面白さでもありますが、毎年加工方法を調整しなければなりません。味と技術が安定するまでに3年かかりました。
そんな努力の物語が詰まったセミドライレーズン。マルシェに来た他のお客様たちも、その美味しさと珍しさに興味津々。10時から始まったマルシェですが、12時過ぎにはもう完売してしまうほど大人気!

一粒ひとつぶ、手をかけて作ったセミドライレーズンの魅力が、多くの人に届いた瞬間でした。
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​​​​​​​2、農業を継ぐということ
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安陪さん夫婦が口にする「大事に育てた」という言葉。そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。
いわさ農業さんは、有希子さんの実家が兼業で営んでいた農家さんです。
国内で農業の担い手が減って来ているように、フルーツ王国と言われる田主丸でも、高齢で農業をやめる人が増えてきました。おじいさまもお父さまも「農業、継がんでもいいぞ」と常々言っていたそうです。
しかし2008年、おじいさまが亡くなってしまいます。
それをきっかけに有希子さんは介護の仕事を辞め、休日手伝いに来るお兄さまと共に「父の代まではなんとか続けよう」と思いはじめます。
そして長男を出産したタイミングで有希子さんは実家の岩佐家に住み、それを機に太雅さんも農業を手伝うようになりました。その頃からお父さまは太雅さんに岩佐家が培って来た農法を教え始めました。

しかし、その矢先…2009年の冬、なんとお父さまも病気で亡くなってしまいます。
まだまだ教わらなければならないことは、たくさんあったのに…
悲しみの中、太雅さんと有希子さんは必死でした。農業の担い手も減って来ている中、手を差し伸べてくれる人はほとんどいません。岩佐農業さんは当時兼業だったので、太雅さんも別に仕事をしていました。限られた時間の中で、太雅さんは青年団へ積極的に参加し、情報交換や繋がりを作って手探りでやってきました。

実は、悲しい出来事は他にもあって、太雅さんのお母様も2008年の秋に亡くなっています。
そんな時期に…なぜ、太雅さんと有希子さんは大変な農業を継ごうと思ったのでしょうか。
「私たちを育ててくれたこの地域、先祖が今まで繋いできたものを無くしたくなかったんです。」
周りの農家さんがどんどん辞めていく、田主丸が誇る果樹園も畑も無くなっていく…それを食い止めたかった。その放棄された畑を借り、少しづつ耕作地を増やしていきました。
そして2011年、とうとう、太雅さんは専業で農業を営むことを決意します。
もともと凝り性の太雅さん。農法を研究していくうちに色々な可能性を見出して行きます。
「このやり方であれば、無農薬でお米を作れるんじゃないか」「ぶどうも何か付加価値がつけられるんじゃないか」思いついたらとにかく色々なことを試しました。
それで現在の、無農薬のお米やセミドライレーズンの商品が誕生したのです。
自然を相手にする農業を継ぐということは、就労人口が減ってきている今の時代、大変なこと。
有希子さんは言います。
「不安だらけですよ。無農薬にしたらしたで、周りの畑に影響があるかどうかも考えなければいけないし」
でもそんな時思い出すのは、お父さまが残してくれた言葉だそうです。

当初は「継がなくていい」と言っていたお父さま。それは農業の大変さ、現状を知っているからこそ。しかし二人の決意を知ったお父様は、そんな言葉をかけてくれたそうです。
「だから、なんだかんだ不安もあるけど、楽しいです。」

短い間に、大切な人を亡くしたご夫婦でしたが・・・
「実は、新しい生命も誕生したんですよ。」
現在、ご夫婦には4人のお子さんがいらっしゃいます。
悲しいことの後には、嬉しいことが。努力の後には、道が。

全てが今のいわさ農業を作ってくれた大切なもの。地元の風景や生命が繋がっていく背景には、こうした物語があるんだなあと思いました。
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3、これからの未来へ繋いでいきたいもの
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いわさ農園さんの作るものは、セミドライレーズンだけでなく、お米やお味噌も絶品。
参道マルシェでも、おにぎりやお味噌を試食した方は、その香り豊かな味わいの虜になり即、購入されていました。

しかし…農法もこだわっているため限られた量しか販売できません。2013年には農協を抜け、直売のみに方向転換しました。
現在は同じ田主丸町内にあるレストラン「spoon」さんと、道の駅のみ。
…あれ?そのほかのお客様はどうやって買っているのでしょう?
「毎年、新米ができたらみなさんにハガキを送っています」
さらりと言う有希子さんですが、宛名からひとことメッセージまで手書きで書くのだそうです。

お客様の中には、耳が遠かったり電話でのやり取りが難しい人もいるそうです。
そうやって一枚一枚、相手のことを考えながら想いを込めて書いています。

有希子さんのこの人柄は、マルシェでもいろんな人を惹きつけていました。

と言う電話がかかってきたり…

と、後日自宅の方へ直接足を運んで来てくれた女性がいたり…
そのエピソードだけでも「ここの商品がどうしても欲しい!」という気持ちが伝わって来ますよね。


太雅さんいわく、有希子さんは「心を通わせる大切さを知っている」人なのだそうです。
有希子さんは、飾らない言葉でテンポよく話します。そして、その言葉からは地元の風景や人を愛する優しさがにじみ出ています。

とことん農法を追求する太雅さんと、有希子さんの伝える力。いわさ農業さんの作り出すものに、多くの人が惹かれるのもわかる気がしました。

最後に、いわさ農業さんのこれからの展望をきいてみました。

いわさ農業さんのような家族経営の農家としての視点は、古くから農耕民族として“日本人がつないできたもの”に通じます。
時代も変わるけれど、地球の環境も変わっていく今、自分たちが伝えるべきことは一体どんなことなのか・・・

例えば、土を触り農作物が出来る過程を知るだけでも、私たちはどのように生かされているのかがわかります。そうすると気候変動が進み自然災害が起こった時に、食生活にどんな影響があるのか紐付けて考えることができます。

「農作物を通じて、多くのことが学べます。教育のこと、環境のこと、食卓のこと…」

売り物にならなくなったぶどうに新しい価値を与えたセミドライレーズンも、その挑戦の一つ。
心豊かで贅沢な時間を作り出してくれるこの一粒ひとつぶが、可能性に満ちた宝石のように見えました。


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