2019年10月~2020年の一年間、西鉄グループ&福岡移住計画が運営するスペース「HOOD天神」のWEBメディアに連載をしていました。
ワークスペースという枠を超え、イベントや学びを通じてさまざまな人たちが集まる「HOOD天神」。
この場所を通じて出会った、生き生きと活動している人たちの
「日々の習慣」にスポットを当てた内容になっています。
Vol.03
~デザインを通して未来に遺せるもの~
あおいろデザイン 江副 哲哉 さん
私たちが日々生活している中で目にしている膨大な数の「デザイン」
そのなかで、何だかこちらにむかって笑いかけているようなデザインがふと目についたら・・・きっとそれは、江副さんの手がけたデザインです。
江副さんはロゴや広告のグラフィイクデザインをはじめ、雑誌の編集や展示室の空間デザイン、企業のブランディングまで幅広い「デザイン」を手がけています。
全てに共通しているのは「シンプルでわかりやすい」加えて・・・
「親しみ」を通り越して「愛着」が湧いてしまいそうな魅力を持っているように感じます。
「シンプル」って難しいのに・・・!なぜ江副さんがデザインするものはそんな気持ちにさせることができるのでしょうか。ヒントをもらうべく、お話を伺ってきました。
1、毎朝植物に水をやってから、仕事をはじめる。
江副さんの事務所には植物がたくさん。緑があると癒されるといいますが、まさにその通り。私もこんな空間で絵を描きたい・・・。と思ってしまう事務所です。
江副さんは毎朝、仕事を始める前にこの植物たちに水やりをします。
毎日世話をしていると、「今日は元気がないな」「この葉っぱは随分厚くなってきたな」
「あっ!新芽が出てる!!」と、小さな変化にも気づくようになるのだそうです。
「そういうの見ると“生きてるんだな、すげーなお前!!”って言ってやります。」
朝からひとりで感激している江副さんの姿が目に浮かぶようですね。
植物の種類もさまざまで、種類によって水のやり方も違うそうです。
土にそのまま水を注ぐ植物もあれば、バケツに浸す植物も。その植物が成長しやすいように接します。
「子どもと同じようなものですよね」
江副さんは子ども向けイベントの広告デザインを手がけるほか、そのイベント内でワークショップを行ったり、大学生と一緒にプロジェクトを進めたりと、直接子ども(大学生含め)とふれあう機会も多いそうです。
10人いたら、10人それぞれ個性があります。
中にはじっとしていられない子や、話をぜんぜん聞かない子、極端に人と接するのが苦手な子もいます。
「平等に接することも大事ですけど“その子にあった成長の手助け”が、本当は必要なんですよね」
江副さんのデザインには、植物もよく登場します。擬人化されたキャラクターもあれば、サインとして形造られたものもあり、目的や用途もさまざまです。でも、どれも命を吹き込まれたように生き生きして見えるのは、まるで子どもに接するように愛情を注いでいるからかもしれませんね。
2、アイデアがまとまらない時は、一度リセットして世界を見る。
江副さんはデザインするとき、ヒアリングをとても大切にしています。
コンセプトや想いだけでなく、好きな色や身につけているものから相手の感覚や好みを感じとったり、一見関係なさそうな家族やプライベートの話なども、とにかく相手のことを聴き込むそうです。
それだけ膨大な情報を、あんなにシンプルに集約したうえ、そこはかとなく「江副さんらしさ」を感じさせられるのはなぜ?これは途中で煮詰まることも絶対にあるはず・・・!
「そんなとき僕は、自転車に乗ります!…最近はバスが多いかな。散歩するときもあります。」
江副さんの事務所は川沿いののどかな場所にあります。事務所も植物がいっぱいで癒される空間ですが、煮詰まったら一度、自分を解放しに外に出るのだそうです。
携帯やPCから離れると、情報を受け取って整理する“ハード”は自分の頭だけ。思考がクリアになる瞬間です。
そのまま風に吹かれて移動していると、樹々の装い、草花のにおいが季節の情緒を感じさせてくれます。また、今抱えている仕事とは全く関係ない情景に出会うこともできます。「あっ、牛丼屋さんがカフェっぽくなってる!オレンジを黒にするとこんなにスタイリッシュになるのか!」と、思わぬところでヒントをもらえることもあるそうです。
通りすがりのおじさんと言葉を交わす中でひらめきを得ることも。
「いろんなことが浄化されますね。」
ただシンプルなだけではない、江副さんのデザインはこうやって生まれるんですね。
3、子どもにはなるべく”実体験”をとおして教える。
日々の業務に、学生や子どもたちとの交流、精力的に出品しているデザインコンペ…
多くの案件を抱える江副さんですが、どんなにいそがしい時期でも休日は家族と過ごすようにしているそうです。
「子どもの発想ってとにかく面白いし、”実体験”を通してこの世界を知ってもらいたいんです。」という江副さん。もともと子どもが持つ生命力に感動を覚えていましたが、ご自身の子どもが生まれてからは向き合い方が変わってきました。
こないだは、拾ってきた松ぼっくりに絵の具を塗りながら色の名前を教えたそうです。
「たまに色が混ざって汚くなることもあるんですけど、失敗することも大事だし、黄色と青を混ぜると緑になるんだ、とか、そこで発見があったり、整理能力がつくんですよね。」
頭だけでなく、見て、聴いて、触って、においを嗅いで、味わって…身体ぜんたいで整理する。
今は実際に「経験」しなくても大抵のことは「知る」ことができるし、写真や映像でリアリティも感じられます。何かを始めようとする時、お手本は山のように出てくるし大多数の人が共感する物事の正解も知ることができます。
そのぶん、保守的になっているような気がする、と江副さんは言います。
「やっぱり子どもたちには夢を持ってほしいんです」
夢を叶えるためには失敗や挫折、不安も伴います。でも、その経験をしたからこそ見える景色があります。
それは、江副さん自身がそうだったから。
図工だけはすごく褒められていた江副さんは、高校進学の時にデザイン系の学校を目指します
。お母さまは「学費5倍かかるんだからね!」と言いながら反対はしなかったそうです。
そうやって自分に投資をしてくれたのだから、デザインを学ぶだけでなくきちんと「仕事」にして両親に還したい!と思うようになりました。
江副さんのお父さまはJRの運転手。仕事に出かける姿はまるで「電車でGO!」を毎日リアルにやっているかのように見えていたそうです。お母さま、もいつも「お父さん、いつも楽しそうに仕事してるよね!」と言っていました。
そんな父をなんとか喜ばせたい、と思っていた江副さん。
大学4年生になったある春の日、JRの車内で情報誌「Please」を手に取ります。JR沿線を軸に展開していく地域や人の物語はとても魅力的で、ページをめくるたびに旅人の心をくすぐります。
これだ!と思った江副さんは電車を降りたその勢いで「これはどこの会社が作ってるんですか!!!」とみどりの窓口に行き、聞き出しました。でも、当時その会社は新卒は採用していません。がっかりしたのも束の間、そこで諦めないのが江副さん。大学の先輩がその会社に就職していることを知り、その先輩を通して「タダ働きでもいいから・・・」と頼み込んだのです。
それから、佐賀~博多間を往復しひたすら雑用にいそしむ日々が始まりました。
その会社は広告物だけでなく、建築や内装デザインも手がける会社。
広告物に使う写真の拡大率を算出してポジをスキャンしたり切り抜いたり。そのほか地図の制作やテキストの修正、撮影のアシスタントまで。制作現場に身を置いている新鮮さを感じながら過ごしていたものの、いっこうに就職の話は出ません。
秋が過ぎ、冬が過ぎ、卒業式も終わり、もう諦めて別の道を考えていた3月31日のこと。
「よかったらうちで働いてみないか」と取締役から直接電話がかかってきたそうです。
念願叶って憧れの会社に就職。それでも、なかなかPleaseの編集に携わることはできませんでした。コツコツと修行を積んでいたある日、Pleaseの記事に挿入する地図だけを任されたのです。
「もう、それだけでうれしかったです!!!」
早速その地図が載った号を両親に持って行きました。
照れ屋の父は、江副さんの前でこそ反応は薄かったそうですが、その後家に来た友人とお酒を飲みながら「これ、哲哉が作ったんだ」と自慢していたそうです。
それから少しづつ、記事の編集を任されるようになりました。
そこで凝ったのが「タイトルロゴ」
「べつに普通の書体でもいいんですよ。でも、ライターさんの想いが文章に表れているし…」
何より”自分らしさ”の痕跡を残したかったんだそうです。
文章からライターの想いを紐解き、それをタイポグラフィで表現する。その、ちょっとした部分に散りばめられた創造性を買われ、一年後、とうとう花形の特集ページ全てを任されることに!
「夢を追いかけていてよかったーって思いました。」
下積み時代の苦労はもちろん、学生時代にも数え切れないほどの挫折がありました。
例えば、学費が高いから画材が買えない、だから画材を持ってるみんなができる表現ができない、というスタートラインからつまづいたり。
「でもそこで”手持ちの画材でどこまで表現できるのか?”という想像力が鍛えられたと思ってます」
その精神は今でも活きていて、案件によって予算や規制が厳しい場合、限られた条件の中でどれだけ良い表現ができるのか、アイデアの源となるそうです。
最近は”自分らしく生きる”という言葉をよく聞くようになりました。でも、”自分らしさ”ってなんだかよくわかりませんよね。江副さんは言います。
「自分が経験してきたことを整理して、表現できたら、それが自分らしさなんです。
僕は以前いた会社で、広告も編集も経験することができたし、図面も見れるようになりました。」
クライアントからよく言われるそうです。
“江副さんはこんなこともできるんだね。話が早くて仕事しやすいね。”と。
「そういう”仕事のやりやすさ”も”自分らしさ” ですよね」
失敗も、挫折も、そして成功体験も、すべては”自分らしさ”を作るかけら。
「みんな、生まれた時からデザイナーなんですよ。これから未来を創っていく子どもたちには特に、自分で経験して、選んで、人生をデザインしていって欲しいと思っています」
デザインを通じて、子どもたちに遺せるもの。
江副さんのデザインはいつでも、私たちに笑いかけて来てくれています。